整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

整形外科の歴史とその役割

2013.10.16
カテゴリ:その他 骨
今回は整形外科の歴史とその役割についてお話をしましょう。どんな症状が生じた時に整形外科にかかったらよいかの理解の一助になればと思います。

世界で最初に整形外科(ortho paedics surgery)という言葉が使われたのは、1741年にNicolas Andryがパリ大学で教科書として出版したL’Ortho-pedieという本の名前に由来します。

この言葉はギリシャ語由来で、ortho(正しい、まっすぐ、矯正するの意味)、paedics(小児の意味)の2つの言葉からなる合成語です。この本では「小児期の変形を矯正し、かつ予防する学問技術」のことが述べられています。この教科書の中の整形外科を象徴する挿絵(湾曲した木をまっすぐに矯正している絵)は今日の日本整形外科学会のシンボルマークとして現在も使われています。もちろん現代整形外科の内容と比べて遥かに未分化で幼稚なものではありましたが、現代の小児側弯症の治療に通ずるところがあります。

日本整形外科学会のマーク

図1 日本整形外科学会のシンボルマーク(桜の木)




小児側湾症治療

 図2 現在使われている小児側湾症治療の装具

 

整形外科の最初は、子供の変形を矯正する学問でありましたが、現在の小児先天性股関節脱臼や小児側弯症の治療など、できるだけ愛護的に最少の侵襲で治療を行う考え方は共通するものでした。

 *侵襲:「病気」「怪我」だけでなく「手術」「医療処置」のような、「生体を傷つけること」すべてを指す。

整形外科は臨床医学の一部門で、外科のグループに属します。もともと医学は薬を中心として治療をする内科(medicine)と、手術を主体とした治療をする外科(surgery)から始まりました。その後、医学の進歩と発達により臓器別、疾患別、あるいは年齢別に数多く分かれて発展していきました(図3)

整形外科とは

図3 整形外科とは

 

各外科系の診療科においては、内科と違って手術を行うことが特徴ですが、近代の外科は内科的な治療も合わせて行うようになっています。整形外科においても保存的な内服治療やリハビリテーション、運動療法、装具療法、物理療法など、疾患治療に対して効果があればなんでも行っております。

例えばガラスで手足を切った時に、皮膚の縫合、止血の処置は外科系の医者ならばすべての医者が行うことが可能です。しかし創部が深くて腱や神経、骨に達していた場合、整形外科以外の診療科では適切な治療ができないことが多いと思います。なぜならば皮下の正確な構造と正しい処置の仕方についての知識は一般外科の先生にはないからです。

その逆のこともあります。腹部に果物ナイフを刺して創部が深くて腹腔内にまで達していた時には、整形外科医の私には適切な治療を行うことが不可能なので、専門の消化器外科の先生がいらっしゃる病院にすぐ紹介いたします。

今日の整形外科では、医学の発達とともに治療の対象とする疾患は多岐にわたっており、さらに医療の進歩と高度な技術革新は整形外科の分野においてもその専門性が高まってきております。整形外科の分野も、小児整形外科(子供の外傷や疾患、および先天性疾患の治療)や脊椎外科(頸椎部や腰椎部の骨や神経、軟部組織の疾患や外傷の治療)、手の外科(特別に精密な手の組織を専門的に治療する部門)、関節外科(膝関節や股関節、肩関節、足関節など)、スポーツ整形外科その他軟部組織腫瘍、四肢に関連する代謝疾患、リウマチおよび類縁疾患など運動器に発生するすべての疾患を領域としております。

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図4 整形外科で扱う疾患の症状

腰痛や上下肢のしびれや痛みに対して原因を診断し治療を行うのは整形外科の努めです。ほとんどの患者さんについてはその原因がはっきりし、治療に効果をあげていますが、時には明確な診断がつかなくて腰痛や頚部痛などが持続している患者さんもみられます。この時にはさらに高度なMRI検査等を用いますが、原因と治療法が明確でない場合もあり、今後も医学的にさらに研究が進められると思います。

最近、街に柔道整復師が行っている接骨院が多くありますが、医学という科学を背景とした理論的な治療を行っている整形外科で確実な診断をすることをおすすめします。