整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

ヒトの二足歩行について

2014.04.14
カテゴリ:腰が痛い
今回はなぜ腰が痛くなるのかについて考えてみましょう。毎日たくさんの腰痛の方を診察していますが、器質的(脊椎・神経・筋肉など)損傷部位が明確なものは約半数しかありません。多少の老化や変形があっても、これが現在の腰痛の原因になっていない場合もあります。たとえば古い圧迫骨折があっても、骨折はすでに骨癒合していてこの部位はもう痛くないという場合も多いのです。つまり、脊椎の変形が腰痛の明らかな原因とは考えられない場合も多いということです。

では、なぜ腰痛を生じるのでしょうか?

脊椎(背骨)はヒトの体を支える、いわば大黒柱のような役目をしています。ヒトは二足歩行を獲得する進化の過程で、脊椎の機能を重力に抗して体を支える機能へと大きく進化させてきました。たとえばチンパンジーの脊柱は軽い後湾曲の単弓性の構造であるのに対して、人でははっきりとしたS字構造をしています。ヒトは完全に後ろ足だけで移動可能になるために、四足の状態から身体を直立させようとして後方に引き起こす背筋群と殿筋群を非常に発達させ、骨盤の上にある腰椎部は前方に湾曲することになりました。このため脊柱全体がS字状構造になったと言われています。

56号院長

このようにヒトは二足歩行に適した構造に発達してきましたが、まだ後肢だけの直立に適応しきっていない不合理な構造が残っており、これが腰痛を引き起こすひとつの原因ではないかと考えられています。いわば、腰痛は進化の途中であるヒトに生じる宿命なのかもしれません。

もしヒトが完全に直立人になりきっているのならば、骨盤の上面はより水平で、その上に垂直に脊柱が立ち、体重が脊椎に対して垂直にかかるのが合理的なはずなのですが、骨盤の一番上の仙椎の上面は約30度の傾きを残しています。そのために上半身を保持する脊柱が常に前方へ滑り落ちるような剪断力が働いています。

このような骨盤の傾きのために、ヒトは極端に前傾あるいは後傾するなど様々な姿勢をとって、無理なストレスのかかる状態で痛みを引き起こしていると考えられます。ヒトはこのような不合理な構造に対して日常生活においてどう対処すればよいかが、腰痛という宿命から逃れる鍵となるはずです。

 

 その痛みを回避するためには、まず背筋を上手に使って、重力に対して脊椎を体の中心(重心)位置に置く正しい姿勢(骨盤を適切な傾きに保持する姿勢)をする必要があります痛みを引き起こしていると考えられます。ヒトはこのような不合理な構造に対して日常生活においてどう対処すればよいかが、腰痛という宿命から逃れる鍵となるはずです。

その方法については次回お話しすることにしましょう。