整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

腰痛症を予防する運動について

2014.08.25
カテゴリ:腰が痛い
前々号では、ヒトが直立して歩行、生活する能力を獲得する進化の過程で脊椎はS字状の形態になっていったこと、またこのことが人体の構造上の欠点である、とお話ししました。

そして前号は、日常生活で腰を痛めないためには正しい姿勢を維持し、腰に負担がかかることをできるだけ避けなければならない、ということをお話しました。

そこで今号では、腰痛症を予防するために効果的な運動についてお話しましょう。運動が苦手な方もご安心ください。今回ご紹介するのは、寝転がって行う簡単なものです。

運動の方法をご紹介する前に、腰痛を生じる原因部位についてもお話ししておきましょう。もちろんひどい外傷や、脊椎腫瘍などで器質的に脊椎構造が壊れてしまったために生じた腰痛は除外致します。日常生活上よく生じる腰痛症につきましても、その痛みを生じている部位は様々でして、その代表的なものを列記致しました。

 

腰痛症の原因について(原因部位別)

  1. 筋、筋膜性腰痛症            :筋肉疲労により筋肉に起因する痛み

  2. 腰椎椎間関節性の腰痛症    :腰椎椎間関節に過度の力が加わってこの部位が痛む場合。

  3. 腰椎椎間板性の腰痛症       :椎間板の変形により神経が圧迫される場合。

  4. 腰椎すべり症(分離症)    :脊椎にずれが生じたために痛みを生じた場合。

  5. その他の原因によるもの   




こういった筋肉や関節や椎間板の周辺に痛みが生じた時に、それぞれの原因部位の腰痛症といいます。これらの脊椎の部位になんらかの力が加わったために腰痛が生じると考えられます。

今回ご紹介する運動が、なぜ腰痛症を予防する効果があるのかを理解していただくためには、脊椎の構造の理解が必要です。この点について簡単にご説明いたしましょう。脊椎の前方には円柱状の形をした椎体と椎間板があり、重力に抗して体重を支えています。時には数百キロの加重にも耐えられるように出来ています。体重を支えながら椎間板は柔軟性を持っていますので、タイヤのクッションの役割をしており、さらにここで前屈、後屈、回旋の動きが出来るようになっています。その後ろの骨は続いていて輪のような弓状の形をしていて、その骨の輪(椎弓といいます)の中心に大切な脊髄神経が通っておりまして、この神経は骨の輪(椎弓)で守られています。その骨の輪の後方が上下に延びていて、これが噛み合っていて関節を作っております。この部分を椎間関節といいます。この関節が、脊椎が前後に滑らないようにしています。腰椎が前方にすべる力が加わると、この部分がよく痛みます。

つまり、腰痛を予防するためには、腰椎や椎間板などの背骨にかかる負担を出来るだけ少なくしてやるのが効果的なのです。そのための第一が正しい姿勢を維持することで、第二が日常生活で腰に負担のかかることをできるだけ避けること、そして第三が腰を支える筋力を普段から鍛え、さらにその柔軟性を維持することなのです。

腰を支える筋力とは、ずばり腹筋と背筋です。つまりおなかの筋肉と背中の筋肉です。この2つを鍛えることにより、背骨に無理な力が加わったり、ずれてしまったりというようなことが起こりにくくなります。

まず効果的なものはストレッチングです。つまり硬く短くなった筋肉や靱帯を伸ばし、柔軟性を高める運動です。まず仰向けに寝てください。そして片膝を抱え、ゆっくりと胸の方に引き寄せます。両方の脚を行ってください。これで腰、背中、おなかの筋肉に効果があります。

58号院長イラスト01

次は仰向けに寝たまま、片方の脚をまっすぐ上げ、膝の曲げ伸ばしをします。これも左右の脚を行ってください。これは太ももの裏側に効果があります。

58号院長イラスト02

筋力を強化するには次の2つの方法が良いでしょう。

仰向けに寝て、あごを引いたまま上半身をゆっくり起こし、45度の位置で5秒止めます。腹筋が弱い人は、起きあがろうと努力するだけでもかまいません。この運動で腹筋が鍛えられます。

58号院長イラスト03

次はうつぶせに寝て、おへその少し下に枕を挟んでください。あごを引いて上半身をゆっくり起こし、10cm上げたところで5秒とめます。このとき腰を大きく反らせすぎないように注意してください。この運動で背筋が鍛えられます。

58号院長イラスト04

ここでご紹介した運動のほかにも、散歩や水泳なども効果的です。決して無理をせず、手軽に出来る運動を生活の一部に取り入れて、永く続けていきましょう。

 

参考文献 「腰磨き」白土 修 監修、エーザイ株式会社