整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

変形性膝関節症③

2011.10.15
カテゴリ:膝が痛い
これまでの、変形性膝関節症についてのお話をまとめてみますと次のようになります。

1.  膝関節の接触部位である関節軟骨は、毎日の日常生活で少しずつ磨り減っている。

2.  しかし、膝関節の軟骨は、軟骨細胞により、少しずつ修復する能力がある。

3.  関節の軟骨組織内には、血管と神経がないので軟骨細胞は、主に、関節液からの酸素と栄養の補給により生きている。(膝関節を適度に動かすことにより関節液は、軟骨組織内に沁みこんでいる。)

ここで、変形性膝関節症の方が、膝が痛くて腫れてしまう理由について考えてみましょう。軟骨がすり減りによっていくら傷ついても、軟骨組織内には、神経が分布していないのですから痛みは感じないはずです。実は膝の痛みの原因は関節の周りにある関節包の炎症によるものと考えられています。

関節の周囲にある関節包は関節液を作る組織であり、この部位には、神経組織が非常にたくさん分布しています。関節包を刺激すると、とても強い痛みを感じることが知られています。ですからこの部位に炎症が起こるととても強い痛みを生じます。また関節液を産生する組織が炎症を生じれば、炎症性の関節液の過剰産生により関節に水が溜まる状態(関節水腫)が生じる事になります。

変形性関節症の関節包に炎症が生じる原因について述べますと、

1.  先ず、関節の磨り減りが繰り返されると、軟骨の削りかすの様な、微小な軟骨片生じます。

2.  この微小な軟骨片が関節包にとりこまれることによって、この異物を排除するための炎症反応が生じます。

3.  関節包に炎症がおきますと、関節液に変化を生じます。この関節液の炎症による変化は、関節液の粘凋性が低下をまねき、本来の関節液の潤滑の役目を低下させてしまいます。

4.  また炎症性の関節液の中には炎症により生じた酵素が存在しており、この酵素は、関節軟骨内のコラーゲン繊維を壊すことにより、関節軟骨を摩擦に弱い状態にしてしまいます。

5.  このことが更なる関節軟骨の磨り減りを生じて関節変形を進展させていると考えられています。

6.  また、膝痛が続きますと、膝を動かさないため、関節周囲の筋力が低下します。そのために、膝関節の正常で安定な動きを低下させることになり、膝関節の不安定性を生じます。膝関節の不安定性は、関節包に引っ張られるような力が加わり、このことが、さらなる関節の痛みと炎症を生じます。

このことをふまえて変形性膝関節症の治療を考える事にしましょう。

まず、関節の安静を保つことが大切です。具体的には、階段の登り降りや、しゃがんだり立ち上がったりのようなことは、出来るだけ少なくするべきです。階段では、てすりにつかまっての階段の昇降をすることもよいでしょう。また、立ち上がる際にどこかにつかまって行うべきです。平らな所を歩くことは、膝には負担は少ないのですが、坂道や長時間の歩行、また、走ることは、やはり膝に負担となります。膝の痛みと腫れの強い時期には、積極的に杖を使うことをお勧めします。正座も膝にはあまりよくありません。このように、日常生活で膝関節の安静を保つことは、軟骨が修復する時間を与えることになります。

関節の炎症が続くと、炎症性の関節液が膝に溜まったりして、ひいては関節軟骨を痛めてしまいます。なるべく早く、関節炎を改善する必要があります。急性期には、膝の安静とともに、消炎鎮痛剤の内服薬や消炎鎮痛剤の湿布を用いることが有効です。また、関節内にヒアルロン酸の注射は、軟骨の修復に効果があります。膝関節は暖めたほうが、痛みの緩和と血流の改善になります。

特に重要なことは、膝関節を動かす筋力を強化する運動を毎日行うことです。この運動により膝の安定性が維持されると、膝痛の改善になります。

膝関節に荷重のかからない方法で膝の周囲の筋力を鍛えましょう。(図示)

最後に膝関節痛の主な原因は、関節包の炎症ですので、これを改善できたら、多少の膝関節変形があっても、膝痛がなくなり、変形性膝関節症の症状は軽減しますので以上の注意を守って膝関節を大切にしてください。