整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

首と肩や腕の痛み

2011.12.09
カテゴリ:首や肩が痛い
今回からは、首と肩や腕の痛みについてのお話をいたしましょう。

首が痛くなったり、頭痛や肩こりが生じたり、首や肩から腕にかけての痛みやしびれ感を訴えられる方がたくさんおられます。この症状を生じる原因は、頚椎の異常による事が多いのです。頚椎を傷めてしまうと頚部の痛みを生じるだけでなく、頚椎には、脊髄神経が通っていて、そこからの神経が肩や腕に伸びているために、ここで神経を圧迫されると肩や腕が痛んだりしびれたりしてしまいます。さらに頭痛や肩こりの原因も頚椎からのことが多いのです。

日常生活で、頚椎は、成人で約4kgから5kg程度もある、重い頭を支えています。しかし、この重い頭を支えていくには、頚椎の骨の構造が貧弱なのです。つまり、人の進化の過程で、頭の重量の増加にたいして首の構造の発達が追いつかなかった事が、本質的に、多くの人が首を痛めてしまう理由と考えらます。この事について、東京大学の解剖学の元教授の養老孟司先生は“人の頚椎は、神様の設計ミス”とまで言っておられます。

現代人は、コンピューターを長時間にわたって操作することなど、頚椎に負担のかかることの多い生活をしています。また、交通機関の高速化は、人の頚椎に負担をかけてしまう機会を増加させています。こういった人を取り巻く社会生活の変化が頚椎症(首を傷めた状態)の増加の背景になっていると思われます。この頚椎にとって受難の時代を出来るだけ支障なくおくるために、私ども整形外科医に課せられた責務は、重要であると思っております。



そこで、今回は、頚椎が頭がい骨を支えている構造について簡単に説明いたしましょう。

頚椎は頭がい骨の下の中央部で、頭がい骨につながっています。そこから7個の骨で、頭がい骨を支えています。【図1】は、人が直立しているときの脊椎全体が、S字のカーブをしていることを示していますが、頚椎部においては、やや前弯をしていて頭の重さを支えています。頭がい骨と頚椎のつながっている一番目と二番目の頚椎は、関節でつながっており、主に、頭がい骨をまわす動きを行っています。三番目以降の頚椎は、頚椎の前の部分の椎体部では、上下の椎体の間に、椎間板という柔らかい軟骨がはさまっていて、頚椎の後方部では、関節を作ってかみ合っていてつながっています。それぞれの椎間板では柔軟に前後左右に曲がることができますが、関節部では、上下の頚椎の骨のかみ合う部分が擦れあうことにより、頚椎間でずれることなく、頚椎全体が、曲げたり伸ばしたり出来るようにして動かすことが出来ます。【図2】



このように、人の頚椎では、周囲についている筋肉を使って、いろいろな方向に動かすことが出来つつ、頭がい骨を支えています。つまり人は重力に対抗して色々な姿勢をとることが出来ます。首に負担のかからない良い姿勢とはどんな姿勢でしょうか。わかりやすく説明しますと、蕎麦屋の出前を思い浮かべてください。【図3】のように重い頭(重いそば)を斜めに支えるより、まっすぐ支えたほうが楽なのです。すなわち、頭の真下に頚椎がある姿勢がもっとも首の筋肉や首の骨にとって楽な姿勢ということが出来ます。

次回はこの点についてさらに詳しくお話したいと思います。