整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

骨とカルシウム

2014.12.10
カテゴリ:骨
人においてカルシウムは、骨の構成要素として骨を強くしているだけではなく、心臓の律動などの筋肉の収縮など神経系や循環系の機能の維持に重要な役割を担っています。このため血液中のカルシウム濃度が常に厳密に一定に保たれていなくては生きて行くことはできません。海中で生活して いる魚類は、海中から常にえらを通してカルシウムを摂取できますが、陸上で生活する動物 (人)では、カルシウムは経口的に摂取する必要がありますし、一時も不足することはできません。そのために、約50kgの人では骨のかたちで1kgのカルシウムが蓄えられています。血液中のカルシウムの総量は5gくらいですので、カルシウムの99%は骨に蓄えられていることになります。人のみでなく脊椎動物が地上で生活できるようになったのは、この多量のカルシウムが骨のかたちで貯蓄されているために、常にカルシウム補給をしなくても生きていけるように進化したためと考えられています。骨からカルシウムを出したり入れたり、まるで銀行から貯金を出し入れするようにして、常に血液中のカルシウムを一定に保って行けるのです。このため人では、骨の中に多量のカルシウムが貯蓄していますので、栄養素としてのカルシウムを1日や2日、さらには1ヶ月や2ヶ月摂取しなくても、筋肉の収縮など神経系や循環系の機能の維持にカルシウムが不足することはありません。しかしながら長期間に渡るカルシウム不足は、骨に対する影響が生じると考えられます。

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人は1日にどのくらいの量のカルシウムを必要とするのかについて、尿や便中に排泄するカルシウム量を根拠に計測されております。それによると1日の必要量は約600mgとなるそうです。つまりこれだけの量のカルシウムを毎日摂取すれば体内のカルシウム量が増減なく保たれることになります。では、カルシウム摂取が不足した場合の影響を考えてみましょう。1日570mgしか摂取せず、30mgの不足の状態が1ヶ月続くとすると900mg、1年間では10g、30歳から70歳までの40年間続いたとすると400gのカルシウムが体内から出ていってしまうことになります。400gとは、骨に蓄えられている全カルシウム量1kgの40%に相当する大変な量で、このことは骨粗鬆症の原因になり得ると考えられます。このようにカルシウムの摂取不足は、短期的にはたとえわずかでも、長期的には非常に大きな問題だと考えられます。しかも一日に骨の中に蓄えることができるカルシウムの量には限りがあるため、骨の中のカルシウム量が減ってしまってからカルシウムを短期的にいくら山盛りに摂取しても骨粗鬆症の解決策にはならないのです。従って、カルシウム必要量をできるだけ若いうちから毎日十分に摂取することが重要なのです。

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ところで、私たちの骨は常に新しく作り替えられており、それを行っているのは骨細胞です。しかしこの細胞の老化が骨粗鬆症の原因になっていることがあるのです。このことに関連して、次回は、「骨は常に作り替えられている」、ということについてお話いたしましょう。