整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

関節のお話 その2 関節液の役割(潤滑と栄養)

2016.05.02
カテゴリ:関節
前回までは、関節軟骨の構造と軟骨基質の成分について説明しましたが、今回は、関節液についてのお話です。

関節液は、滑膜で作られるので滑液とも言います。関節液は、関節内を満たしている液体で、関節を保護、維持するための重要な役割を果たしています。その役割は、関節の潤滑と軟骨の栄養の大きく二つに分けられます。それぞれについて説明しましょう。

  • 関節液の粘性と潤滑


関節軟骨は、荷重運動により関節軟骨表面が、互いに、密着し、擦れることにより、すり減ると思われます。この事が、関節の老化の原因となるのですが、実際には、関節軟骨相互にきわめて摩擦の少ない潤滑を行っていることが、計測によりわかってきています。その摩擦係数は、0.001~0.0057と言われおり、金属対金属の摩擦係数は、0.3~0.8で、ボールベアリングの摩擦係数が0.001であることから、その潤滑は、きわめて効率が良いことがわかります。工学的には、液体潤滑と境界潤滑とが同時に起きており、さらに軟骨の形状変化による関節液の浸みだしなど複雑な機構のもとに行われています。関節軟骨相互間の潤滑と低摩擦の機構について、今日なお十分解明されたわけではありません。(図1)66号院長図1

しかし、関節軟骨相互間の潤滑には、潤滑面間にある液体(関節液)の粘性が重要な役割を果たしております。運動時、関節液は、流速が減少すると粘性が増すと性質があり、潤滑機構を円滑にしています。

関節液は、関節包の内側にある滑膜で、分布する血管やリンパ管から、血液の赤血球や白血球などの血球成分とフィブリノーゲンが濾過された血漿成分から造られます。この血漿成分に、さらに滑膜組織において、合成分泌された、ムチン様成分(ヒアルロン酸のタンパク複合体)が加わることにより、血漿成分より粘性が強い液体となっています。この粘性の強い液体(関節液)が、関節が動く時の、関節軟骨表面の摩擦の軽減に重要な役割を果たしており関節の老化(磨耗)を防いでいると思われます。



  • 関節軟骨の栄養


関節運動などにより、軟骨組織は、常に、少しずつすり減り損傷します。しかし、関節軟骨組織内の軟骨細胞では、前回説明した軟骨基質〈プロテオグリカン複合体〉を盛んに合成することにより、損傷した組織を修復しています。軟骨修復は、少しずつでは、ありますが、軟骨細胞によって行われています。関節の老化とは、関節のすり減りであり、関節のすり減る量に対して、修復するスピードが間に合っていれば、いつまでも関節の健康が維持できます。たとえ、関節を使いすぎて痛んでしまっても安静にして軟骨細胞が修復する時間を待ってあげればよいのです。ところで、軟骨細胞が元気に生きていくためには、軟骨細胞に供給する栄養が必要です、実は、軟骨細胞の栄養は関節液から受けています。軟骨組織内には、血管も神経も見当たりません、これは、常にすり減り磨耗している関節軟骨に血管や神経があれば、ほんのは少しの動きで、出血や痛みが生じてしまっては、困るからなのです。では、血管のない軟骨組織内の軟骨細胞に栄養と酸素が、どのように届けられるのでしょうか。関節液は関節の滑膜で造られ、そして同時に吸収されることにより常に新しい関節液が、関節内を循環しています。この関節液が関節軟骨組織内の軟骨細胞にまで浸み込んでいくためには、関節の運動が必要なのです。関節を動かさないと関節液が軟骨細胞まで浸み込んでいかないため軟骨細胞は死んでしまうのです。このことは臨床的にもギブスなどで長時間、関節を動かさないと、軟骨が痛んでしまう事実からも広く認められています。関節を健康に維持するためには運動がとても大切な理由もここにあるのです。

次回は傷んだ関節を、修復する方法を考えてみたいと思います。