整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

グルコサミン(健康食品)と関節軟骨について (関節機能の維持と改善をめざして開業医からの助言)

2012.06.04
カテゴリ:その他
最近、診療中よく患者さんから次のような質問を受けます。

「先生、街の薬屋さんで売っている、傷んだ膝関節を治す薬のグルコサミンは本当に効くのでしょうか?」

時には、これがコンドロイチン硫酸だったりヒアルロン酸だったりするのですが、これらの健康食品について責任ある回答をしなければならない立場の整形外科医としてはとても困るのです。

先ず、これらの物質は薬ではなくて関節の軟骨成分の一部を健康食品として売っているのです。薬ではないのですから、その効果が公に認めているわけではありません。理論的には、関節軟骨の構成成分の一部を経口的に摂取しても消化管で分解されてから吸収される訳ですので、これにより関節内で軟骨が増加するとは思えません。しかし、絶対に関節軟骨を修復する効果がないと断定する証拠もないのです。つまり結論としては判らないのです。さらに詳しく調べれば、何らかの効果がみつかるかもしれません。



そうすると、なんだ結局はわからないんだ、と言われるのがとても不本意なので、今回、軟骨およびこれら軟骨由来の健康食品についてよく調べてみましょう。

グルコサミンとかヒアルロン酸とかコンドロイチン硫酸など聞いたことのない化学品名を言われてこれが関節軟骨だと言われても普通の人には何もわからないと思います。

軟骨の生化学や構造は基礎医学を学んでいない方に説明するのはとても難しいのですが、一応、化学構造式から物質の特徴を説明させてください。

■グルコサミン

まず代表的な健康食品グルコサミンについて説明しましょう。グルコサミンは自然界ではカニやエビなどの甲羅のキチン質として多様に存在しています。

グルコサミン(Glucosamine 化学式C6H13NO5)はグルコース(糖)の一部の水酸基がアミノ基に置換されたアミノ酸の一種です。(図1

動物においてはアミノ基がアセチル化されたNアセチルグルコサミンの形でヒアルロン酸などのプロテオグリカン多糖類の成分となっています。

 

■ヒアルロン酸

ヒアルロン酸はグルコサミンとグルクロン酸が結合した二糖単位がたくさん連結して高分子を形成しています。分子量は100万を超え、非常に高い保水性および粘性を有する高分子化合物です。(図2

経口摂取されたヒアルロン酸、およびヒアルロン酸の代謝物は一部は皮膚や関節の結合組織に移行して各組織で利用された後、肝臓で代謝され排泄されます。

ただし経口摂取した場合は関節疾患改善作用はないものと医学的には考えられています。これは関節軟骨には血管が存在せず、消化管から吸収された成分が軟骨修復の役目を行う関節内の軟骨細胞まで移行することが原理的に不可能なためです。このことは、他のプロテオグリカン多糖類であるコンドロイチン硫酸、ケラタン酸、なども生体内では同様の代謝が行われていると思われます。



■プロテオグリカン多糖類

その他のヒアルロン酸と同様の軟骨構成成分であるプロテオグリカン多糖類の化学構造式を見てみると同様にグルコサミンが重要な構成成分となっています。(図3

 

 

 

 

 

 

関節軟骨ではコンドロイチン硫酸やケラタン酸はヒアルロン酸の長いフィラメントに多数のコンドロイチンやケラタン酸からなる群体(アグリゲート aggregate)として関節軟骨内に存在し高度な立体構造を作り、関節の機能の維持に重要な役目を担っています。(図4

関節の立体構造については次回に詳しくご説明しましょう。今回は健康食品について発売されている種々の化合物についてどんなものかを概略をご説明しました。その機能は次回ご説明します。