整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

子供のスポーツ外傷について ---子供たちの野球肘を防ぎましょう---

2012.10.15
カテゴリ:肘が痛い

「野球肘」「野球肩」スポーツ障害でよく耳にすると思います。今回は野球肘とはどのような疾患なのか。そして放置してしまうとどうなってしまうのか,当院の投球障害リハビリを簡単に説明させていただきます。


 野球肘は大きく分けると内側型・外側型・後方型があります。手のひらを正面に向けたとき、肘の内側の骨のでっぱり付近に痛みがでる症状を内側型。外側の骨のでっぱり付近にでるものを外側型といいます。野球少年に多いのが内側型野球肘です。   内側型野球肘は肘の内側にある靭帯にストレスがかかり、靭帯が肘の内側の骨のでっぱりを引っ張ってしまいます。肘に負担のかかる投げ方をしていると、靭帯に引っ張られ骨がはがれてしまいます。(写真1、2、3)子供の骨は成長段階のために骨が未熟でやわらかいために起こってしまいます。   同じ野球肘でも、成熟した大人の骨ではおこらず、大人の肘では靭帯が切れてしまいます。

エコー 剥離

写真1 靱帯に引っ張られて骨がはがれている





写真2 <左>レントゲン画像 小さな骨がはがれて取れている <中央>エコー画像 正常な画像 <右>エコー画像 中央エコー画像と比べ骨の連続性が欠けている



 

写真3 12歳 肘レントゲン
子供は成長途中のため骨がつながっていない(大人はつながっている)



外側型野球肘で代表的な疾患は、離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)というものがあります。離断性骨軟骨炎は初期症状は痛みがないことがあります。痛みが出たときには状態がかなり進行していることがあります。 透亮期(初期 図1左)は安静では痛みは消失し、分離期(図1中央)になると時々痛みがでます。関節症状は曲げ伸ばしが制限されます。遊離期(図1右)では遊離体(関節ねずみ)が肘関節面に挟まり激痛とともに動かせなくなります(ロッキング症状)。肘関節を完全に曲げられない・伸ばせない状態にもなります。 外側型は放置しておくと中学・高校に入ってから遊離体(関節ねずみ)を取り除くための手術が必要です。 離断性骨軟骨炎は早期発見・早期治療で治すことが可能です。

図1 離断性骨軟骨炎分類
右の遊離期では遊離体(関節ねずみ)が見られる



 

野球少年のためのリハビリテーション


投げずにいたら痛みがなくなったが、投げたら痛みがでることがあります。 確かに投げずに安静にすることは大切です。しかし、安静にするだけではベストな治療とは言えません。痛みがでるということは何かしらの原因があります。 それは、ストレッチ不足による体の硬さや投球フォームの問題などがあげられます。 良いとされる投球フォームはあります。しかし、みんながそのフォームで投げることはできません。性格がみんな違うように投球フォームも人それぞれ違うものです。 当院ではスローイングできるネットがありますので投球動作・ストレッチ・トレーニングを個人にあったものを指導(リハビリ)することができます。(写真4

写真4



お子様が投球中や投球後に痛みや違和感を訴えたら病院にいらしてください。 脇田整形外科では、長く・楽しく野球が続けられるようにサポート致します。

 

野球肘検診


当院には最新の超音波機器(エコー)があります。(写真5

写真5 肘検診



エコーと聞くと健康診断や妊婦検診で使用しているというイメージがあると思います。 エコーを使用して診察する理由。それはレントゲンやCT・MRIと違い患部を動かしながら診察が可能なのです。妊婦検診を想像していただけるとわかりやすいと思いますが、お腹の中の赤ちゃんの動きを見ることができます。整形外科疾患では患部を動かしながら診察することで、骨・筋肉・靭帯・皮膚がどのようになっているのかがわかります。(筋肉の炎症状態や損傷度合いなど。) 当院では野球肘をなくすためにエコーを使用し、野球肘検診を行う予定です。 痛みや違和感がなくても一年に一度は肘の検診をすることが望ましいと考えます。

 

参考文献: 『標準整形外科学』第9版 『NEW MOOK 整形外科スポーツ傷害』

『超音波でわかる運動器疾患 診断のテクニック』