整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

観察を要する股関節疾患(observation hip joint disease) 単純性股関節炎とペルテス病を中心に

2014.02.14
カテゴリ:股関節が痛い
今回は、突然に股関節痛を生じて、脚を動かすと太ももや膝の周辺が痛がり、歩くときには破行(足をを引きずって歩く)を呈するか、または、股関節痛のため歩くのを嫌がる小児期に特有な、股関節疾患についてお話ししましょう。

頻度的には、ほとんどが、単純性股関節炎ですので、まずは、単純性股関節炎ついてお話をしましょう。発症年齢は分布図に示した通り、小児期に生じます。原因不明の股関節炎を生じる疾患です。整形外科外来では、日常よく見られる疾患でそれほどめずらしいものではありません。

院長01

朝起きたら子供が、一方の太ももや膝の周辺を痛がって動かそうとしない、そして、うまく歩けないので、母親が、抱くか、おぶって、整形外科に来院されます。母親は、「前日から少し脚を痛がっていたが、前日のスポーツをした時に足を痛めたのではないか」と思っております。普通は、子供が突然脚を痛がれば、誰でもが怪我をしたのだと思いまよね。



しかし今回の単純性股関節炎の場合、股関節の外傷ではありませんし、股関節や筋肉の疲労によって引き起こされたのでもありません。原因は現在のところわかっていませんが、股関節に関節炎を生じる病気です。股関節の炎症により関節液の貯留が見られるときもあります。股関節を動かすと、痛めた方の股関節の明らかな可動域制限がみられます写真)。レントゲン検査では関節液の貯留を認めることはありますが、骨や軟骨の変化は見られません。

院長02

我々は過去に単純性股関節炎の原因究明を行ってみました。入院していただき、その時に関節液の検査やウイルスの抗体価の測定など徹底的に検査を行いましたが、原因となる細菌もウイルスも発見できませんでした。私は、この非細菌性の関節炎は、同定できなかっただけでウイルスの関与があるのでは、と思っています。成長期の子供に生じた股関節炎が、成長に影響を及ぼしているのではないかと考えて、過去に単純性股関節炎にかかった患者の十年後の状態を観察させていただき、全て問題はありませんでした。

心配する母親に、この疾患の説明を次の様に行います。

『お子様の股関節は、基本的に正常です。現在、股関節が風邪をひいている状態と考えてください。一過性股関節炎との別名があるくらいで、一週間程度の安静で皆様、軽快していますし、治れば後遺症はありません。もちろん、細菌性股関節炎を否定することを前提としています。

小児の整形外科医の中には、単純性股関節炎の原因について、ペルテス病のごく軽い状態と考えている人もいるかもしれません。ペルテス病は、頻度的には、とてもめずらしく、当院では1年に一人程度です。発症の初期には、発症年齢も症状も単純性股関節炎症状と、とても似ています。しかしペルテス病は小児の股関節に生じた原因不明の血行障害で小児の大腿骨の骨頭が壊死してしまう病気です。早期の発見と適切な治療を長期間(1年~2年)行って大腿骨骨頭の変形を最小限に食い止める必要があります。そうしないと、歩行能力に重大な後遺症が残ることもあります。

どちらも、小児期に発症する疾患で病気の発症初期の症状が似ているので、疾患の経過観察を注意深く行って疾患の鑑別診断に注意をしなさいという意味で観察を要する股関節疾患(observation hip joint disease)と呼ばれています。頻度的には、ほとんどが単純性股関節炎ですが中にはペルテス病のこともありますから注意をしてください、ということです。