整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

変形性膝関節症①

2011.07.22
カテゴリ:膝が痛い
今回から何回かに分けて、変形性膝関節症についてのお話をしてみましょう。
年をとって膝の痛みが生じる場合は、なんといっても関節軟骨の老化による変形性膝関節症が多いようです。 なぜ、年とともに膝関節の軟骨が痛んでしまうのでしょうか、整形外科をはじめ、多くの研究者によって、この点についてのたくさんの研究がなされております。関節軟骨の構造や性状を調べる事から、軟骨修復の過程についてなど、その研究は多岐におよんでいますが、今回は、変形性膝関節症の予防と治療に役立つ、現在までに知られた、重要で最新の知見を中心にお話をいたしたいと思います。
膝関節は、立位や歩行時に体重を支える荷重関節です。体重が加わらない上肢関節と異なり、日常生活では、ほぼ恒常的に関節面に体重が加わって曲げ伸ばし行っていると言えます。このため長い年月を経れば、関節表面の軟骨は徐々に磨り減ってくることになる。だから誰もが、年とともに変形性膝関節症になるのは、いたしかたないと思われるかもしれません。しかし本当にそうなのでしょうか。また磨り減ってしまった関節軟骨は、もう元には戻らないのでしょうか、確かに、疫学的調査によれば、加齢とともに変形性膝関節症になる方の割合は多くなる事は事実ですし、さらに女性の方が、男性の方より3倍以上も変形性膝関節症になる方が多いことも認められます。しかし、90歳を過ぎても膝の痛みはなくて、X線像にてもほぼ正常な人がいらっしゃることも事実です。
人間には加齢という現象がつきものですけれども、では年がいったらみな変形性膝関節症になるかというと、そうではないわけで、ある限られた人だけに変形性膝関節症という病名のつけられる病的変化がおこるのです。つまり、関節軟骨の正常な機能に問題が生じた方に、関節の磨り減った状態が始まってきたと考えられます。本来、人の関節は、その関節軟骨の接触表面の滑りやすさを増すことにより、そう簡単には関節がすり減らないようにできていますし、さらに、痛んだ軟骨は、軟骨内にある軟骨細胞が、まわりにある軟骨基質とよばれる組織を再生することによってゆっくりではありますが、常に修復しています。そこで正常な関節軟骨ってどんな構造になっているのでしょうか。関節軟骨を顕微鏡で見てみますと図のように表面から表層、中間層、深層、石灰化層、の四つの層からなっているようにみえます。その構造ですが、全体として、この白く見える構造体は、コラーゲン繊維から成る枠構造の中に軟骨基質と呼ばれる組織が詰まっていて、その中に軟骨細胞が点在しているように見えます。ビルの鉄筋コンクリートにたとえれば、鉄骨(コラーゲン繊維)の枠の中にコンクリート(軟骨基質)が詰まっているようなものと考えてよいと思われます。この軟骨基質はプロテオグリカン複合体と呼ばれていますが、そのプロテオグリカンの枝の部分は、非常に高分子の物質でこの中に多量の水分子を含むことが特徴とされています。その枝をグルコサミノグリカン鎖といいます。これをグルコサミンといって軟骨が磨り減らないためという、うたい文句で、街でよく売られていますが、本当にこんな高分子の物質を飲むことで、軟骨部にこの物質が増えるのか疑問です。ともかく、この部位の水分子を多量に含む性質(含水性)は、軟骨の弾力性のもとになりますし、荷重による圧迫により水が染み出ことによりスケートのように軟骨表面の滑り(潤滑)に役立っているようです。
ここで紙面の都合上、さらに、人の関節軟骨がいかにうまく関節の磨り減りを守っているかについては、次回にお話いたしましょう。