整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

変形性膝関節症②

2011.08.19
カテゴリ:膝が痛い
前回までに関節軟骨の構造についてお話しました。膝関節は、日常生活において、歩いたり、しゃがんだり、立ったりする度に、少しずつ傷ついていると思われます。特にO脚の方(日本人にはとても多いのですが)は、膝関節の内側から少しずつ磨り減っていくようです。しかし、前回にお話したように、関節軟骨内にある軟骨細胞が、軟骨の成分である軟骨基質(プロテオグリカン複合体やコラーゲン繊維)を再生して常に修復しています。従来、この軟骨細胞は、あまり活発に機能していないのではと言われていましたが、最近の研究によりますと、活発に、いろいろな物質を産生して軟骨の修復に携わっているらしいのです。そこで膝関節が痛くなってきたら、無理をせず、膝関節を休ませて下さい。こうして関節の修復する時間を与えてあげることが、変形性膝関節症の進展を防ぐ上に大切なことと思われます。

子供のときから膝関節を使えば関節軟骨は、少しは痛んでいたのだと思われますが、すぐに軟骨修復が行われて、あまり気にすることはなかった。しかし、年とともに軟骨細胞も老化してきて、修復するスピードが遅くなり、関節軟骨の修復が間に合わなくなって、その結果、関節に変形が生じてきたと考えられます。どんなに痛んでしまった関節でも、杖をつくとか、体重を減らすとか、階段の上り下りに手すりを使ったりして、気長に膝関節を大切にしていけば、ふしぎと関節は痛くなくなり、関節の変形も進まなくなると思われます。

この様に軟骨修復が行われると言う根拠は、膝の矯正骨切り手術後の患者さんの軟骨変化に認められます。この手術は、O脚が高度のために、膝関節の内側に荷重かかり過ぎるために内側の軟骨がひどく磨り減ってしまった方に、骨を切ってO脚を矯正する手術です。これにより、脚が真直ぐになり、膝の内側と外側とに均等に荷重が加わるようになるため、膝の内側の関節軟骨の荷重が軽減します。関節の中やそれ自体には手を加えていないのに、関節の中を覗いてみると、術前には、軟骨の下の骨が関節にむき出しになるほど、ひどく痛んだ関節軟骨が修復しているではありませんか。関節軟骨の修復には、関節に負荷を加えない事の重要性を示唆する事実であると思います。

次に軟骨内にある軟骨細胞に目を向けてみましょう。軟骨組織をみてみると、不思議なことに軟骨内には、血管や神経が見当たりません。軟骨細胞も生きているのですから、いっときも、酸素と栄養の補給がなければ生きてはいけないのに血管がないのです。ではどこからその補給を受けているのでしょうか? 実は、関節液から酸素と栄養の補給をうけて、軟骨細胞は生きているのです。実際よく考えてみると関節軟骨は、日常生活で、常に擦り傷を負っ

ていると考えられます。その度々に、その軟骨の擦り傷から出血して関節に血が溜まったり、痛くなったりしたら、生活が出来なくなってしまうかもしれません。そんなことが無い様に、軟骨組織内には血管と神経はないのです。人間の組織細胞で血管が分布していないのに細胞が生きているところがもう一箇所あります。そこは目の表面にある角膜細胞です。そこに血管が分布していたらどうでしょう。血管の線が見えてしまって、物を見るのに邪魔で困るでしょう。軟骨細胞と同じ様に、角膜細胞は、栄養血管はない代わりに、常に涙から酸素と栄養の補給を受けているのです。角膜細胞が生きていくには、いつも、まばたきをして新しい涙の補給と乾燥を防ぐ必要があるのです。

このことは、軟骨細胞にも同様のことが言えるはずです。関節においては、関節液は関節の袋 (関節包) の内側にある滑膜という膜組織で作られています。滑膜内の血管から液体成分を濾しだすようにして作り出しているのです。また古くなった関節液を血管に戻すことも同時に行っていて、関節液は常に新しい液が関節内に循環していると考えられます。この関節液が、軟骨にしみ込んでいくことにより軟骨細胞は酸素と栄養を得ています。この場合、関節液が軟骨内にしみ込んでいくことが重要なのです。つまり軟骨細胞は、軟骨組織の中にあるため、関節を動かすことにより、軟骨表面に適度の圧迫が加わることにより軟骨内部にしみこんでいけるのです。これは、日常生活で雑巾を洗うときに、雑巾を絞ったり水につけたりして雑巾のなかに水を循環させるのと同じ原理なのです。こう言った訳で、正常な関節の維持にとって関節を動かすことも重要なのです。関節にあまり負荷をかけないようにしながら、毎日適度な(その人に合った)運動を行う必要があります。その具体的方法と、さらに他の膝関節の軟骨を痛める要因については、次回にお話をしましょう。