123号 擦過傷など創部の汚染が心配な傷について(感染予防について)
前号に引き続き、家庭でよく生じるケガの応急処置についてお話ししましょう。
前回に、切り傷のような、比較的、創部がきれいで出血が問題となる傷の場合の、止血法について、お話いたしました。今回は、擦過傷や裂傷などの場合の、感染予防と、その後の治療法についてお話をしましょう。
擦過傷や裂傷などを受傷して、創部が砂や泥などで汚れている場合。そのところが、ヒリヒリ痛くて触りたくないかもしれませんが、そこを、我慢して直ぐに、たくさんのきれいな水でよく洗ってください。水道水の流水で結構です。(理想的には、多量の無菌の生理的食塩水を用いますが) 創部内に異物(砂や泥など)が入った場合は、多量の流水中で、布やブラシを使ってでも、ゴシゴシこすって十分に創部を洗浄して、異物を残さないでください。創部に砂や土の汚れが残ったままですと、感染してしまうだけでなく、傷の中に汚れが残ったまま創部が治る為に傷跡に黒い染み(外傷性刺青)が残り、顔面の擦過傷などのとき、問題となります。多少の出血は、かまいませんので、最初に、傷をよく洗浄した後で、前回にお話したように止血をしてください。創部が深くて、大きく開いていたり、創部の異物がうまく洗い流せないときは、なるべく早く、病院へいらしてください。病院でよく洗浄を行い、必要があれば、創部の縫合処置をするか、もしくはテープなどで創部を逢わせるかもしれません。簡単な洗浄を行って、直ぐに病院に来ていただければ、病院で洗浄をおこないます。病院にいらっしゃるなら、創部に軟膏や傷薬などの薬をつけることはしないで、ガーゼや布などで創部を覆っただけで、来ていただきたいと思います。かえって傷薬が、創部の状態の把握をしにくくし、洗浄の邪魔になります。

ここで少し、医学的に創部の細菌感染についての考え方を説明いたします。細菌感染(傷が膿んでしまう事)を生じるのは、本人の感染に対する抵抗力もありますが、創部からの細菌の侵入により、創部に一定の数以上の多数の細菌が入ってしまったと考えられます。もちろん、創部の細菌は見えませんし、その数を数えることはできませんが、多量の、きれいな水で洗い流す事が、消毒液をただ塗るだけより、細菌数を少なくする有効な方法と考えられます。創部内に異物が残っていれば、異物に細菌がついていると考えられますので除くべきです。創部の洗浄は、なるべく早く行ってください。
もし、創部が汚染されていて、細菌が創部内に入ってしまうと、その細菌は、どうなるのでしょうか。しばらくの間、その細菌は、じっとしています。その後、細菌は、創部内の組織のなかに入って増殖を始めます。この時点では、いくら洗浄しても完全には、細菌を洗い流すことはできない、と考えられます。ゴールデン・アワー (goldenhour)という言葉がありますが、これは外傷直後より、約8時間までのことで、細菌が創部内に入って増殖を始めるまでのおよその時間を言います。受傷後より約8時間以内(ゴールデン・アワー)ならば、理論的には、十分な洗浄で細菌数を0にする事が可能です。それ以後では、いくら創部を洗浄、消毒、しても創部内に入った細菌は残るため、感染の可能性が高くなります。病院にいらっしゃるのも、なるべく早く、できたらその日のうちに来ていただいた方が良いと思います。

その後の創部の手当ては、創部の出血が収まるまで圧迫止血を行います。そして消毒液などで消毒を行い、きれいなガーゼなどで創部を覆っておいてください。擦り傷など皮膚の表面のはがれた傷の場合は、創面が乾燥しないように、保湿性のある軟膏などを塗布してから、きれいなガーゼなどで覆っておき、細菌が入らないように、毎日、創部が治るまで消毒と軟膏の塗布とガーゼの交換行ってください。
よく、擦り傷は乾かしたほうが良いといって、わざと創面をむき出しにしている方が、いらっしゃいますが、これは感染を生じることになり、創部の治癒を遅らせることになります。創面の組織細胞が増殖して上皮化(皮膚が再び再生すること)するためには、創面は乾かさないで、湿潤な状態を維持して組織細胞が増殖しやすい環境にすることが必要です。
最近、更に、創部をフィルムのような膜で覆っておいて創面を乾燥しないようにする方法も行われていますが、これは創傷の治癒には最も有効な方法だと思います。
医療法人社団 裕正会 理事長 脇田 正実


