122号 切り傷について(止血法を中心に)
前号に引き続き、家庭でよく生じるケガの応急処置について是非とも知っていていただきたいことをお話しましょう。
切り傷について(止血法を中心に)
当院に切り傷でいらっしゃる患者さんは、必ず皆さん、「包丁で手を切ったら、血が止めらなくてとても困った。」と言われます。驚くことに、ほぼ全員の方がそうおっしゃるのです。看てみると正しい止血法を行っている方は一人もいないのです。これだけ情報があふれている現代社会で正しい傷の応急処置を知っている方が皆無なのはなぜなのか首をかしげたくなります。つまらない健康食品の宣伝より正しい止血法をもっと宣伝しなくてはいけないと思います。そして正しい傷の手当てをしてください。
まず始めに、切り傷のような、比較的、創部がきれいで出血が問題となる傷の場合、まず創部の止血を行いましょう。包丁で手を切ったりした時、とても痛かったり、思ったより血が出て、びっくりあわててしまうことがあると思いますが、この場合、決してあわてずに、簡単に創部を水で洗って、すぐに局所圧迫止血をしましょう。創部の上から乾いた布やガーゼで押さえて指か手のひらでグーッと強く圧迫しておく方法です。この局所圧迫止血だけで血は必ず止まります。このとき創部に十分に圧迫力が加わるように押さえる布は、やや厚めで、小さなもの(創部だけを押さえる程度の大きさ)が良いでしょう。押さえている布が血で濡れてしまったら、乾いた布に代えてください。指や手のひらで押さえているのが疲れてきたら同じ程度の圧で持続して押さえられるように同部に包帯やテープを巻いて押さえておきます。少しして、出血が止まった頃に、そっと覆ってあった布を開けてキズの程度を確認してみてください。
傷の皮下の組織損傷(神経や腱など)がある場合、整形外科などの専門医の治療が必要なこともあります。そのまま家庭で治療する場合には、創部を消毒液で消毒して、必ず清潔なガーゼ等で傷を覆っておいてください。(外部の何処にも細菌は存在するのですから)小さな傷ならカットバンなどでもよいのですが、創部を水で濡らしたり外部に出したりせず、傷を清潔な状態に保っていれば、一般的には一週間程度で傷は治ります。4、5日して、傷がズキズキして、赤くなってきたときは、細菌が入って傷が感染してきたかもしれません。傷の治りが悪ければ病院にいらしてください。
指の付け根や腕をひもやタオルなどで固く縛る駆血による止血法は行わないほうが良いと思います。よくこの方法が本などに書いてありますが、次の理由において行わないほうが安全です。
創部の中枢部を縛る駆血法は、縛る場所の圧によっては危険なことがあるからです。局所を適切な圧で正確な時間の駆血ができればよいのですが、縛る圧が強すぎれば神経や組織を傷めることがあり、縛る圧が弱ければ(動脈圧以下の場合には)動脈性の出血は止められず静脈だけの駆血になります。このため創部はうっ血状態になり、かえって出血が増してしまいます。病院で、駆血をはずしたら、血が止まったなんてことが良くあるのです。さらに、長時間の駆血を行えば組織が壊死してしまうことになります。病院で手術のために駆血する時はタニケットという適切な幅で圧迫する圧を管理できる装置を使い、駆血時間を正確に計って行っているのです。
参考のために、人の出血が止まる仕組みについてお話しますと、出血とは、血管(多くは小動脈)が切れて、そこから血が出てくる状態です。誰にでも、出血時には傷ついた小動脈の断端部の血管が収縮して細くなり、そこに血液の成分の血小板などが栓をすることにより血が止まる機能があります。手を切った直後は血が出ますが、血管における止血が完了するまで局所を適度に圧迫して少し待っていれば血は必ず止まります。
次回は擦過傷など創部に砂や泥などに汚染されている、感染が心配な傷に対する、最初に行う治療方法についてお話ししましょう。
医療法人社団 裕正会 理事長 脇田 正実