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92号(仲町台編)脳神経内科の外来に来られる方を診察してみると

2020.04.14
カテゴリ:認知症

今回も再び仲町台のウェルケアはら脳神経内科院長の原先生に認知症についてのお話をいただきました。認知症でもいろいろなタイプがあり、また一見認知症に見えても違う疾患の場合もあります。正しい治療を受けるためには、やはり専門の先生の診察を受けることがとても重要だと思います。

医療法人社団 裕正会理事長 脇田正実

 

脳神経内科の外来に来られる方を診察してみると

 

今月と来月は多くの方の関心が高い認知症についてお話します。

認知症といった言葉は古いものではなく、2005年に時の厚労省が“これからは認知症と呼ぼう”と決めてからです。それまでは“痴呆”や“ボケ”と呼んでいたので、少しイメージがよくなりました。

では、アルツハイマー病と認知症は同じ意味でしょうか? ご存じかもしれませんが、認知症には色々なタイプがあって、アルツハイマー病はそのひとつの疾患に過ぎません。しかし、アルツハイマー病は認知症の中の約6割を占める疾患で、認知症=アルツハイマー病のように皆様がとらえてしまうのも無理はありません。アルツハイマー病以外の認知症は図1に示した通りいろいろあります。その疾患とその割合も示しております。

私の外来でもこれまでさまざまな“物忘れ”の方がいらっしゃいましたが、一見、認知症の症状がみられた患者さんの中には、実際には他の脳神経疾患の場合があり、診断後に適切な治療で症状が改善した患者さんも多くいらっしゃいます。

例をあげますと60歳の男性で大手メーカーの部長クラスの方が、奥様と来院されたことがあります。最近物忘れがあり、会社の重要な会議中でもボーっとしていたり、家庭でも話しかけても反応がなかったり、話の内容を全く覚えていないとのことでした。診察ではやや自信がない表情をされているものの、認知症検査で記憶力の障害は軽度でした。注意力の障害が目立ち、社会的な立場を考えると脳機能にはなんらかの障害が疑われました。しかしMRIでは海馬の萎縮はみられませんでした。 そこでもう一度よくお話を聞くと、家庭で会話中に12分の間、一点を見つめて口をもぞもぞ動かすことが何回かあったそうです。脳波をとりますと側頭葉に異常な波がありました。そこでてんかんの治療薬を開始したところ、症状は劇的に改善し仕事でも家庭でも元に戻ったとのことでした。この方の病気は“部分てんかん”です。“てんかん”と言われると、突然倒れて、手足を痙攣させる大発作を連想させますが、なかには意識を完全には失わず、他人からはわからない程度の発作のタイプもあるのです。

最近は60代以降の中年から高齢者のてんかんが増えていて、この方のように“複雑部分発作”と呼ばれるタイプはよく認知症と間違えられます。 実際、発作が持続すれば脳機能障害を生じ、認知症になるリスクもありますので、正確な診断と治療が必要です。

 その他にも甲状腺機能が低下したために気力がなく顔面や手足がむくむとともに認知機能が低下する“甲状腺機能低下症”があり、これは内服薬で改善します。また頭をぶつけた後、急に様子がおかしくなり、頭蓋骨と脳の隙間に血のかたまりが徐々に溜まる“慢性硬膜下血腫”や脳内に水が溜まる空間(脳室)が大きくなって脳を圧迫し、認知症や尿失禁、歩行障害などの症状が出る“正常圧水頭症”も簡単な手術で認知症状が軽快することで有名です。(図2)

このように、認知機能が低下しても中には治療により症状が軽快する疾患も多くありますので、認知症の症状がみられ、心配な方は、一度は専門医の診察を受けることをお勧めいたします。

次回はアルツハイマー病についてお話しします。

    ウェルケアはら脳神経内科 院長 原 一(はら はじめ)