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93号(仲町台編) アルツハイマー病の症状と治療について

2020.08.05
カテゴリ:認知症

前回までは症状が一見認知症に見える脳神経の疾患(“てんかん”や“硬膜下血腫”、“正常圧水頭症”などの“治る認知症”)についてお話ししました。 急に認知機能障害が進んだ場合は上記の可能性もあり、専門医の受診が必要なことは覚えておいていただきたいと思います。

さて今回は“アルツハイマー病”のお話をします。 認知症全体の6割以上がアルツハイマー病ですので名前はご存知の方も多いと思います。(図1) 

自分や家族がアルツハイマー病になっていないかどうしたらわかるでしょうか? この病気の特徴は物忘れです。“数分前の事”を簡単に忘れることから始まります。例えば、会話をしていて同じことを何度も繰り返す場合などはこの疾患の可能性があります。また日時などに無頓着で今日が(何年)何月何日か分からないことが多いのですが、本人は“今は仕事をしていないから覚えていない”などと気にしないのです。

多くの患者さんは“物忘れはあるが年相応”と考えていて自分から医療機関を受診されることは稀です。しかし漠然とした不安を感じている場合も多く、忘れたことを他人のせいにしたり(被害妄想)、指摘されると突然激怒することがあります。 これを“行動・心理症状:BPSDと呼びます。 大事な通帳や印鑑のしまった場所が分からなくなり”だれかに盗まれた“と思い込むことも良くあります。 

診断として重要な事は記憶力の検査と画像診断です。 頭部MRIの典型例では記憶に関係する”海馬“の萎縮が目立ちます(図2)。 診断が難しい場合は脳血流の検査をすることもあります。  

残念ながらこの病気には根本的な治療はなく徐々に進行してしまいます。 しかし心理・行動症状は内服薬でかなり改善することが多く、認知機能の進行を遅らせる(一時的には改善も期待される)薬もあります。 実際早期から治療されている方とそうでない方では、ご本人はもとより周囲の家族の負担も大きく違います。 やはり早く診断をうけ内服や介護面での準備を進めることが重要です。 

最近の研究では認知症の3分の1は予防できることがわかってきました。 その予防方法は脳血管障害の予防とも共通する面が多いのです。 すなわち高血圧や糖尿病など動脈硬化因子の予防と治療、適度な運動の継続、バランスのとれた食事療法があげられます。 また難聴を放置すると聴覚刺激が少なく認知症の進行をきたしやすくなるので補聴器を付けてでも、積極的に社会との関わりを持ち興味のあることを楽しみながら継続することが推奨されます。 

最後にもしご家族が認知症になった場合、周囲の介護は非常に重要です。 介護の目標は少しでも認知機能を維持させることではありません、残された人生をいかにストレスなく(本人も周囲も)過ごせるかどうかが一番重要です。 

1人で介護を抱え込むのではなく、介護サービスを利用したり周囲の理解・助けを得ながら本人を支えることで、介護される方もする方もより充実した時間が過ごせるのです。

今ご家族の認知症介護で大変な思いをされているかたも、それが永遠に続くわけではありません。 適切な医療と介護の介入で現在よりも安定することもありますので専門医や施設にご相談ください。

 

ウェルケアはら脳神経内科 院長 原 一(はら はじめ)