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99号(仲町台編・脳神経内科医の日常診療から) ”眼が回る”めまいの話

2021.08.07
カテゴリ:脳神経疾患について

“眼が回る”めまいの話

最近クリニックでも季節の変動のせいか“めまい”を訴えて来院される方が増えています。

そこで今月は“めまい“についてお話します。 一口に”めまい“といっても色々な症状があります。 自分や周りの世界がぐるぐる回るように感じる回転性めまいや体が揺れたりふわふわして感じる浮遊感、立ち上がった際に目の前が真っ暗になり失神しそうになる症状も人によっては“めまい”と表現します。 急に出現した回転性めまいは嘔気や嘔吐を伴い恐怖感すら感じます。 “脳の病気”と思って脳神経内科や脳神経外科を受診される事も多いのですが、回転性めまいの原因として脳の病気は極めて稀です。 ある専門外来では脳が原因のめまいは全体の1.7%だったとの報告があります。 ではどのような原因があるのでしょうか、主なめまいの原因疾患を分類したのが1です。

 

 

 大きく分類すると三半規管や前庭神経など耳に関連する①末梢性めまいと脳卒中などの脳に関連する②中枢性めまいに分けられます。

 末梢性めまいの中で最も多い原因は良性発作性頭位めまい(BPPVと呼ばれる三半規管の異常です。 耳の奥には3つの半円形の管が合わさったような形の三半規管と呼ばれる構造があります(図1)

 

 

 これは3方向の回転加速度を感じるセンサーです。 管の中にはリンパ液が流れており、体(実際には頭)が動いた際の動きをこのリンパ液の流れでとらえるのです。 リンパ液の動きを脳に伝えるために有毛細胞がありその上に“耳石”と呼ばれる小さな石がくっついています。この石が何かの拍子にポロリと取れてしまって三半規管の中をふわふわ浮いている状態がめまいを生じるのです。 BPPVは頭を動かしたときに生じる強いめまいです。 寝たり起きたりの際はもちろん寝返りをしたり振り向くだけでもめまいがでます。 しかし頭部を動かさずじっとしていれば1分~数分以内に収まります。 嘔気や嘔吐・冷汗も伴い緊急の状態に見えますが、命に別状は無く多くの場合は数日から数週間程度で自然緩解します。 診断に必要なことは病歴と同時に頭位眼振検査です。 フレンチェル眼鏡(図2)をかけてもらい座位⇔臥位(懸垂頭位など)での眼振を観察します。治療は耳石の場所にもよりますが典型的な後半器官型のBPPVはエプリイ法と呼ぶ頭位変換治療を行うことで速やかに改善することもあります。 しかし浮遊耳石の場所や状態によっては治療方法が異なるため専門医のもとでフレンチェル眼鏡を使用して行うことが必要です。

 

 

BPPVとの鑑別が必要な病気としては突発性難聴メニエール病があります。 この2つの疾患はめまいが出現すると同時あるいは数日前後して片側の難聴や耳鳴り・耳閉感が出現するのが特徴です。 聴力検査なども必要ですのでこの場合は耳鼻科の受診が必要です。

もう一つの鑑別として前庭神経炎があります。 原因はウイルス感染に伴う炎症や血流障害が考えらえていますが、結論はでていません。 頭位を動かしたときはもちろん、じっとしていてもめまいが続き耳鳴りや難聴はありません。 症状がでる1週間ぐらい前に感冒などの感染症の既往がある方が半分ぐらいおります。 2週間程度で自然に治る方が多いのですが、ステロイドなどの内服治療をすることが一般的です。

脳の真ん中(脳幹部)や小脳に脳梗塞や脳出血を生じておきる中枢性のめまいでは“呂律が回らない”、あるいは片側の手足の脱力やしびれ、顔面のマヒなどを併発します。 もしめまいと同時にこのような症状がありましたら、直ちに脳神経内科か脳神経外科を受診してください。MRIによる画像診断が必要です。

 また血圧低下にともなう脳血流の障害によって起立時に”クラっとする“あるいは意識を失いそうになることがあります。 これも”めまい“として感じることがありますが立ち上がった時に起きる症状なのでよくお話をきけば鑑別できます。

 

ウェルケアはら脳神経内科 院長 原 一(はじめ)