NOW from Clinic

98号(仲町台編) 新型コロナウイルスとワクチンについて

2021.06.15
カテゴリ:新型コロナウイルス

今回予定を変更して新型コロナウイルスについてのお話です。

ようやく日本でも新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。ワクチン接種により感染拡大が収まる希望が見えてきました。ワクチン接種についていろいろご心配な皆様に、今回、原先生にワクチン接種の副作用およびワクチンの内容等について詳しく説明していただきました。これにより皆様のご理解が得られると思います。

理事長 脇田 正実

 

新型コロナウイルスとワクチンについて

 

今回は当初パーキンソン病について前回の続きを書くつもりでしたが、今現在社会の最大の関心事である新型コロナウイルス(Covid-19)とそのワクチンについて緊急で特集します。

先日私自身も2回目のワクチン投与を医療者として先行接種いたしました。 一回目の接種は翌日に接種部位(肩の)筋肉痛が出ただけでしたが、2回目は接種翌日に発熱と倦怠感が出ました。 幸い接種が土曜日で翌日は休めたので診療には影響ありませんでしたが、このような話やさまざまな情報があふれる中で接種をためらう方も多いと思います。

私は感染症の専門ではありませんが、接種を受けた医療従事者としては副反応よりも実際の感染の方がはるかに恐ろしいと感じています。

なぜなら今回のワクチン(ファイザー製)はウイルスそのものではなく、その構造のごく一部(ウイルスの周囲にあるヒトの細胞にくっつく突起)を特殊な方法を用いて体内で一時的に作るワクチンですが、この程度でも発熱・倦怠感がでるのに、本当にウイルスに感染して体の中でどんどん増殖したら、とてもこの程度では収まらない事は明白だからです。 しかし長期の副反応についてはまだ誰もわからないのも事実です。 10年~数十年後に思わぬ副反応が出る可能性はゼロではありませんが、私を含め中高年であれば明らかにメリットがリスクを上回ると考えます(20歳以下の若年者で接種が進まないのはこのような理由もあると思います)。

今回の“新型”コロナウイルスはなぜ“新型”なのでしょう? それはこれまで自然界には50種類以上のコロナウイルスがいて、そのうち6種類は人に感染することが知られています。 6種類のうち2種類はSARSMARSの原因ウイルスですがあとの4種類はいわゆる“感冒”のウイルスです。 我々が風邪(医学的にはウイルス性上気道炎)をひいたときに特に何ウイルスが原因かを突き止める検査はしません。 それはインフルエンザウイルスを除き特別な治療がなく多くは自然に治るため検査をする必要がないからです。

ウイルスと細菌(例えば食中毒を起こす大腸菌など)の違いを正確にご存知でしょうか? 大きさの違いは一般的なウイルス/細菌で10~数十倍の差があります。 大腸菌が車の大きさであればウイルスはラジコンカーぐらいです。 従って細菌は普通の顕微鏡で見えますがウイルスは電子顕微鏡でなければ見ることはできません。 また細菌は栄養や水分のある環境下で自己増殖ができます、夏場に食品や牛乳などを放置すれば腐りますが腐敗とは栄養素をエサにして細菌が増殖する事です。一方でウイルスは生きた細胞が無ければ増殖できません。 自分を複製するための情報(DNARNA)とそれを包む膜構造を持つのがウイルスですが、増殖するために必要な酵素や環境を感染した細胞に頼っているのです。 環境中にいるウイルスは時間がたてば分解されるためウイルスを排出している宿主(新型コロナはヒト)との接触がなければ過度に恐れる必要はありません。

 

 

さて肝心のワクチンです。 現在使用されているものはファイザー製で大規模接種ではモデルナ製も使用予定です。いずれもmRNA(メッセンジャーRNA)を合成した脂質の膜で包んだ構造でこれまで実用化されなかった新技術です。ウイルスそのものではなくウイルスが細胞に侵入するために必要な突起構造を細胞内で造り、これが我々の免疫が“敵が来た”と認識してこの構造に対する抗体をあらかじめ造ることでウイルスの感染や感染した時の重症化を防ぎます。 有名な医学雑誌に掲載されたデータではいずれのワクチンも95%近く感染を予防したとの報告でした。 実際にワクチン接種が進むイスラエルや英国・米国では社会全体の感染がおさまりつつあるように見えますので集団免疫を作るうえで最も有効な方法でしょう。

 

 

なぜ日本はこれらの国に比べて接種が遅れてしまったのかについてはここでは触れませんが、今回のワクチンは接種する立場から言えばかなり扱いにくいものです。 RNAは簡単に分解される物質なので長期間の保存には超低温(―70度)が必要です。 また一瓶(バイアル)に6回分の成分が含まれており一度生理食塩水で注射器につめると6時間以内に接種しなければいけません。 これまでのインフルエンザワクチンなどは冷蔵庫での保管で1バイアル2回分でしたので使い勝手が大きく変わります。 貴重なワクチンを無駄にしないためにも、しっかりと予約して準備が必要であることをご理解ください。

今月から高齢者向けの接種が始まっていますが、米国などでは既にワクチンに余剰が出てきているので今後は供給量の増加が見込まれます。 まだ接種されていない方もあせらず、12か月の待機で予約が取れるようになると思いますので焦らずにもうしばらく頑張りましょう!

 

ウェルケアはら脳神経内科 院長 原 一(はら はじめ)