NOW from Clinic

118号 小児の股関節疾患--化膿性股関節炎について

2024.10.15
カテゴリ:小児整形外科

 

前号に引き続き小児の股関節の整形外科疾患についてお話します。

今回は化膿性股関節炎についてのお話です。

 

a.発症原因について

通常は、血行性(血管内を血液に混ざって循環すること)により細菌感染が股関節に生じた事により発症します。

原因菌の侵入経路は肺炎、中耳炎、臍帯炎など遠隔部からの血行感染がほとんどです。

その他、直接感染として他の疾患治療の過程で不潔な手技で股関節部位への動脈穿刺等にて医原性の感染が稀に報告されています。

血行感染の原因として侵入した菌が体内を血行性に巡り股関節に達すると以下の理由により発症します。

小児の大腿骨頚部には骨端線という軟骨の層があり、この部分で末梢動脈はループ状に折れ曲がって走行しているため、この部分に菌塊が引っ掛かり増殖して感染が発症するといわれています。(図1)

 

 

 

.診断と症状

症状は単純性股関節炎(前々回にお話しました)と同様に股関節と股関節の運動制限と跛行(歩行障害)が見られますが、化膿性股関節炎の場合は症状が激烈です。通常来院時、患児は泣いて痛がって股関節周辺を触らせてくれない状態で当然動かそうともしません。(運動制限)

化膿性股関節炎の場合、患児は痛みのため患側下肢を全く動かさない状態なので一見足が麻痺したように観察されるのでこの状態を「仮性麻痺」と言います。通常、全身の発熱を伴い、股関節周辺の熱感も見られます。

小児の化膿性股関節炎はよく知られた疾患ですが、実際は比較的発症頻度は少ないようです。私は過去に数例の化膿性股関節炎の治療経験があります。

全ての患児は激しい疼痛を訴えており、この症状から化膿性股関節炎を推察することは、比較的容易です。さらに血液検査で炎症所見(白血球増多、血沈の亢進、CRPの異常亢進)が認められた時には診断の確認ができます。

確定診断は股関節穿刺により関節液から膿性滲出液が得られ、培養にて細菌の存在があれば感染を確定できます。

 

.治療と予後

化膿性股関節炎が疑われた場合は早期の股関節内の排膿および洗浄が必要となります。このためには股関節を外科的に切開し、排膿、洗浄するか、もしくは鏡視下での排膿、洗浄を行います。原因菌の同定と強力な科学療法を行う必要があります。

治療が遅れると、股関節から骨髄や骨頭軟骨への感染が広まり、骨髄炎が慢性化すると骨破壊や軟骨破壊が生じます。この場合、股関節変形が残存し機能障害が生じます。

抗生剤による治療は診断早期から行うべきです。抗生剤投与前にできたら細菌培養と同定が望ましく、早期の診断と患部の外科的な処置により股関節の感染治療が行われることが重要です。これにより大きな後遺症なしに治癒することが可能です。

化膿性股関節炎は注意深い診断と早期の治療が必要な疾患です。

 

次回は小児の股関節の整形外科疾患「大腿骨頭すべり症」についてお話します。

 

医療法人社団裕正会 理事長 脇田 正実