119号 小児の股関節疾患--大腿骨頭すべり症について
今回も引き続き小児の股関節の疾患のお話です。
小児の骨には骨端線という骨の長径成長を行う組織があります。
この組織では図に示すように成長軟骨の層があり、軟骨細胞が相乗に配列し、細胞増殖し、骨化し、新たな骨を作っております。
この軟骨部位は骨組織に比べて力学的に弱い構造のため、せん断力が加わるとこの部位で組織が裂けることが考えられます。そのために小児の大腿骨骨頭の骨端線成長軟骨ですべりが生じ、骨頭の変形が生じる疾患です。
原因的には明らかな外傷による症例は少なく、比較的軽微な外傷で徐々に生じることが多く、両側性の場合は20%から30%あることによりホルモン異常等の内因的な要因があると言われています。
本症は、比較的年長の男児(10歳~16歳)が多く男性は女性の約2.5倍発生します。
患児の特徴として肥満児が多いことが報告されています。(その3/4が著しい肥満児でした。)
両側例は20~40%にみられました。
【病型分類】
- 急性型
明らかな外傷を契機として発症するタイプで、その頻度は比較的少なく、全体の5%~10%とされる。すべりの程度は大きいことが多い。ときに骨折、小児大腿骨頚部骨折との鑑別が問題となる。
- 慢性型
外傷歴が明らかでないうちに、徐々に発生してくるタイプである。本症の70~80%を占める。すべりの程度は軽微な症例では早期診断が遅れることがあるので注意を要する。慢性型として経過中に軽微な外傷で急にすべりが増強することもあり、慢性型の急性変化とされている。
【症状と診断】
1.疼痛
急性型では股関節痛を訴える
慢性型では異常歩行を主訴し、疼痛は強くないものが少なくない。疼痛の中でも股関節主訴とするものは50%程度である。
2.可動域制限
通常、患肢は外旋位をとっており、股関節は屈曲外転内旋の可動域制限がみられる。特徴的な所見として
ドレーマン徴候が見られる。
ドレーマン徴候とは仰臥位で股関節を屈曲していくと、患肢が開排(外転・外旋)していく所見です。
【X線診断】
通常、骨頭すべり症では骨端核は後方および内方にすべっており軽度のすべりの場合正面像ではわかりにくいため、側面像を見て検査する必要がある。CTによる立体的な撮影検査は確定検査に有効である。
【治療】
急性期の場合は牽引あるいは徒手整復で転位して骨端核をできるだけ正常の位置に整復してからキルシュナー鋼線もしくは中空ねじを用いた内固定を行う。
徒手整復はすべりが新鮮な場合は容易であるが、陳旧例では禁忌である。すべりが軽度の場合(30度以下)
その位置で内固定(ピンニング固定を行う)
高度のすべりの場合、骨頭変形を矯正するための三次元矯正骨切り手術(インホイザー法)または回転骨切り手術を行うことがある。
早期の発見と治療により、簡単な内固定にて治療が可能な疾患であるので早期の診断が必要となります。
医療法人社団裕正会 理事長 脇田 正実