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121号 頭を強く打った場合について

2025.04.11
カテゴリ:外傷

 前号に引き続き、家庭でよく生じるケガの応急処置についてお話ししましょう。

 

頭を強く打った場合について

 

 今回は、頭を強く打ったときの応急処置についてお話をしましょう。

 たとえば、滑ったり、転んだりして頭を強く打ったときに、どうしたらよいのか、またこのとき、どういった心配があるのか、ぜひとも知っておきたい注意についてのお話です。

 人の頭は、人の生命にとって、とても重要な脳組織のある部位ですので、この部位の打撲や外傷は、注意が必要です。

 

 

 頭部は、大切な脳組織を保護するための堅い頭蓋骨に囲まれた構造になっています。頭蓋骨の外部は、頭皮とけん膜と筋肉からなる、比較的薄い組織が頭蓋骨の表面を覆っております(上図)。この部位の打撲では、直ぐ下に硬い骨があるため、頭皮が、裂けたり切れたりしやすく、また皮下の血流が豊富なため、切り口の大きさに比較して出血が多くてびっくりすることがありますが、局所の圧迫止血にて必ず出血は止まりますので心配はいりません。傷の状態を見て皮膚が深く裂けているときには、切れた皮膚を縫合する必要がある時もありますので来院されてください。頭皮が切れなくとも、打撲にて皮下血腫を生じると同部が腫れて見えます。この腫れを皆さんが、よく“タンコブ”ができたといっているもので、皮下の血腫によるしこりです。この場合局所を氷のうで冷やして置けばよろしいと思います。

 

 特に問題となるのは頭蓋骨の内部の脳に変化を生じた場合なのです。頭を強く打ったときには、頭蓋内の脳にいろいろな変化がおこることがあります。数は少ないのですが、頭蓋骨(頭の骨)の内側に出血がおこると生命に危険を及ぼすことがありますので注意が必要です。このような頭蓋内の出血(頭の中の出血)の症状は、頭を打った後直ぐ起こることも、1~2日、ときには数日たってから起こってくることも、またずっと遅れて時には数ヶ月もたってから起こってくることもあります(慢性硬膜下血腫)。ですから現在何も症状がなくても十分注意しなければなりません。頭を打った後、元気だった人が急に死亡したりすることがあるのは、このような頭蓋内出血のためなのです。

 

この頭蓋内出血は、頭蓋骨骨折(頭の骨折)とは、必ずしも関係しませんから頭の骨に異常がないからといって安心はできません。そこで頭を強く打ったときには、頭の位置を少し高くして頭部を冷やして安静にしてしばらく様子を見てください。(下図)

 

 

 そして次の症状がみられたら、頭蓋内の脳の損傷が疑われますので、手遅れにならない内に、なるべく早く、医療機関(脳神経外科)に来院されることをお勧めします。

 

(1) 頭痛がだんだん強くなる時

(2) 吐き気や嘔吐(食べ物を吐いたり、なにも食べないのに物を吐く)が起こる時

   (小児の場合は嘔吐をすぐしますが、それが何回も及ぶ時)

(3) 手足が、うごきにくくなったり、しびれたり、手に持ったものを取り落とすことが多くなったりした時

(4) 意識がはっきりしない時。たとえば、ぼんやりしてきたり、あるいは、ほっておくと直ぐ眠ってしまい、

   起こしてもなかなか起きない様な時。

(5) 全身・手・足・等の痙攣(ひきつけ)が起こる時

 

 なお、小さい子供は、相当強く頭を打った時でも、症状が出にくいことが多いので、たとえ元気にしていても1~2日は目を離さないことが大切です。少なくとも2~3日は、外出をしたりして過労をさせない様に注意をしてください。

 上記症状が生じた患者を病院へ運ぶ時は、出来れば前もって病院に連絡しておいて、出来るだけ振動の少ない乗り物で、短時間に運んでください。

 あまり神経質になることはありませんが、専門(脳神経外科)の病院では、CTやMRI等の検査を行って頭蓋内の問題があるかを調べることができます。

 頭を打っただけのすべての人にこういった検査は必要ありませんので、症状を見て判断すべきでしょう。以上、頭部外傷の時の注意を簡単に説明しました。

                  医療法人社団 裕正会 理事長 脇田 正実