整形外科医の日常診療から Orthopedic surgeons blog

成長期のお子さんのスポーツ外傷 その2

2017.06.19
カテゴリ:スポーツ 肘が痛い 関節
前回は、野球肘と言われる障害に対して、当院が行っている治療についてその一端をお話ししました。さらに少年野球のお子さんに対して集団検診を通じて障害の早期発見に努めている事もお話ししました。

今回も引続き、野球肘についてのお話です。お話の順番としては前後しましたが、野球肘の病態について詳しく説明してみたいと思います。

 

■野球肘の原因と分類について

野球肘は、野球の投球動作により生じる肘関節の損傷をいいます。

原因となる、野球の投球動作を分析すると、図1に示した様に、4つの動作に分けられます。



■野球肘発生のメカニズム

投球動作 第3相の加速期では、肘関節に外反の力がかかります。肘関節の内側には牽引力が、外側には圧迫力がかかります。また第4相のフォロースロー期では肘関節は、強く伸展、内反するため、橈尺関節、肘頭橈側と肘頭窩とが衝突します。(図2)

その結果、肘関節に特有の損傷を生じます。



■野球肘の分類

この損傷の程度の差は、有りますが、損傷部位により、大きく分けて内側型と外側型と後側部損傷型に分類されます。

  • 内側型は、先ほど説明したように第3相の 加速期において肘関節内側側副靭帯への引っ張り張力により生じる側副靭帯損傷と同部への牽引力による肘関節内側上顆部の骨端軟骨の損傷です。X-Pでは骨端軟骨に 多彩な変化がみられます(図3)特に肘関節内上顆の骨端軟骨の骨端線離解もしくは同部の剥離骨折は、12歳以下の小児の肘に多くみられ、リトルリーグ肘として有名です。

  • 外側型は、投球動作第3相の加速期において上腕骨小頭の関節面への、圧迫力と剪弾力による骨軟骨損傷であります。この関節面の変化を離断性骨軟骨炎(OCD)といいます。(図4)上腕骨小頭に生じた変化は、投球を続ける限り一定の経過をたどることが分かってきました。そこで、病期分類がされています。

    初期(透亮期) 最初、局所的な骨化の停滞による透亮像が小頭部前外側に生じ、次第に小頭の中央部まで透亮像が広がり骨硬化が伴ってきます。この変化までは、投球の中止などの保存療法で十分対処できます。
    進行期(分離期)
    になると透亮像内に骨硬化を伴った小骨片が出現します。この時期では、まだ修復の可能性がありますが、さらに進行して、骨片と硬化した母床との間に隔離像が明瞭になると、保存療法では満足な十分な修復は望めません。肘関節の機能の保持には、観血的手術が必要になります。
    終末期(遊離体)
     分離病巣が隔離すれば、遊離体となります。母床内に留まっている場合と、関節内遊離体になっている場合があります。関節内遊離体が、関節に陥頓すると、ロッキングの原因になります。関節軟骨欠損部も、ある程度修復しますが、変形を残します。関節内遊離体も関節変形や可動域制限の原因となります。

  • 後側部損傷型 投球動作 第4相のフォロースロー期では肘関節は、強く伸展、内反するため、橈尺関節、肘頭橈側と肘頭窩とが衝突します。図5に示したようにこのために肘頭部の骨端軟骨の損傷がみられます。


■まとめ

成長期の野球肘の原因とその障害について、説明しました。特に外側型の離断性骨軟骨炎OCDは、早期発見と治療を行わないと肘関節変形を残す可能性が高いので注意が必要です。一般的に成長期のスポーツ外傷の特徴は、関節周辺の骨端部に成長軟骨が存在することです。この成長軟骨は、骨組織より外力に対して障害を受けやすく、また将来の関節の形成に重要なものです。早期の診断と治療が保存的な治療の近道です。

 

【参考文献】

1 メジカルビュー社『投球傷害肩 こう診てこう治せ これが我々の切り口!』筒井廣明他 p143,2016

2 医学書院『標準整形外科学』26章 肘関節 p431

3 メジカルビュー社『関節外科』 Vol.8 No.9,p111,1989

4 メジカルビュー社『関節外科』 Vol.8 No.9,p113,1989

5 メジカルビュー社『関節外科』 Vol.8 No.9,p1151989