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113号 小児整形外科の先天性三大疾患 ~筋性斜頸~

2023.12.15
カテゴリ:小児整形外科

整形外科には小児先天性三大疾患があります。先天性股関節脱臼、先天性筋性斜頸、先天性内反足の三つです。前回は先天性股関節脱臼について掲載させていただきましたが、今回は先天性筋性斜頸について掲載させていただきます。

 

■疾患概要

筋性斜頸は、耳後方にある乳様突起と呼ばれる筋肉に損傷が生じ、硬くなることで、首の動きが制限される疾患です。筋肉が原因で首を傾げる(斜めになる)ため筋性斜頸と呼ばれています。胸鎖乳突筋は左右両側に存在する筋肉で、どちらか片方が損傷を受けることで首が損傷を受けた方向に傾き、反対側に首を回すことができない状態となります。

この疾患は生後2週間後ころから症状が明らかになったり、1か月検診がきっかけとなり診断されたりすることが多い疾患です。また一方で無治療でも自然に改善することが多いのですが、経過によっては手術が検討されることもあります。

 

■症状

先天性筋性斜頚は、生後すぐにはあまりはっきりせず、生後23週間ほどの経過と共に、徐々に症状が明らかになることもあります。生後2週間過ぎから、首をどちらかに傾ける、首にしこりがある、などで気づかれます。そのため、1か月健診をきっかけとして、初めて病気が診断されることが多いのです。痛みがでることはありません。通常片側性で、片側の胸鎖乳突筋が硬くなるために、先に述べましたように硬いほうへ首を傾けた向き癖のようになり、そのために反対側の頭部が平坦化することが多くなります。例えば右筋性斜頸の場合は右へ首を傾げる斜頸位、左への向き癖(図1)、左頭部の平坦化(いわゆる斜頭)が生じます。

   

 

■検査

先天性筋性斜頚は、臨床経過やその特徴的な症状から診断されることが多く、そのため、必ずしも特別な検査を行うことはありません。

特別な検査を行うのは、胸鎖乳突筋の損傷状況や瘢痕の形成状況、その他の疾患として骨性斜頸(先天的な骨の形態異常=奇形が原因の疾患)を除外することを目的として、エックス線検査や超音波検査、MRI検査(こどもを寝かしつける必要ありますので普通は施行しません)などの画像検査が検討されます。

超音波検査では胸鎖乳突筋の中にしこりが確認され、胸鎖乳突筋に左右差が生じていることが確認されます。またその内部輝度(画像上の光り輝く度合)にも左右差が見られることもしばしばです。(図2)



■治療

先天性筋性斜頚は多くの場合、2才頃までに無治療でも90%は自然に改善することが期待できます。

治癒過程を促進することを目的に、本人が向きにくい方向からの刺激を意図的に増やし、首の運動を促すこともあります。具体的には、向きにくいほうでお母さんが仕事をし、声をかけてあげ、そちらにおもちゃやテレビなども置く、等々興味を引く方向に注意を払います。寝ているときに向きにくいほうの反対側を向きやすいように背中を傾けるようにバスタをはさむことも良いと思います。

また、首の動きを促すために、赤ちゃんの首を他動的に真っ直ぐに向ける、動かす、などもストレッチ運動として取り入れることがあります。

 

■手術治療はどんな時に行うの

ではどんな時に手術が必要になるのでしょうか?時間経過と共に症状の改善が期待できますが、ときに治癒過程が芳しくないこともあります。3歳を過ぎても斜頸位が残る場合には、手術を検討します。その理由は、斜頸位が長期に残存することで顔面の非対称(顔面側弯図3)が生じ、顔面の非対称は斜頸が改善しても自然改善が得られにくいためです。また成人まで斜頸位が残存すると、強い肩こりの症状につながります。

手術は就学前に行うことが多く、全身麻酔下で硬い胸鎖乳突筋を切離します。術後は再発を予防するため、装具を約2か月間は装着します。装具やストレッチは手術と同じくらい重要な治療になります。

  

おおぎや整形外科 院長 扇谷 浩文