116号 小児の整形外科疾患 ~とくに股関節疾患について~
前回までは小児の三大先天性整形外疾患(斜頸、内反足、発達性股関節形成不全)のお話しでした。これからは小児期(0歳~15歳)の整形外科疾患についてお話します。
【小児の整形外科疾患 ~とくに股関節疾患について~】
整形外科では図のように全身の運動器の疾患(脊椎、上肢、下肢の疾患)を扱います。とくに今回は小児期の股関節の疾患を中心にお話しします。
・単純性股関節炎
特に誘因なく下肢痛を生じ、このため破行(足をひきずって歩く状態)を生じる疾患です。子どもが朝起きて、歩こうとしなかったり、足を引きずって歩く場合は、まずこの疾患が考えられます。比較的、日常よくみられる疾患で、整形外科クリニックでは週1~2名はこの疾患で来院されます。
子どもは患側の股関節を動かすと痛みを感じられるため、股関節の屈曲制限や内旋外旋の制限があり、健側と比べてあきらかな可動域制限が見られます。これは股関節炎による関節液の貯留のために生じる症状です。
・エコー検査
通常、単純XP(レントゲン)上では、骨に異常は認めません。股関節液が貯留した場合、骨頭の外方化が見られます。股関節エコー検査にて、関節液の貯留を認めることが多くあります。単純性股関節炎は原因不明の股関節炎であり、股関節に関節液が貯留した状態です。
過去にこの原因について多くの研究者が調査してまいりましたが、明確な原因はまだわかっておりません。
単純性股関節炎は外傷や過度の運動によって発症した証拠は見つかっておらず、通常は誘因となる外傷や過度の運動がない場合にも発症しております。
治療は股関節の安静がもっとも重要です。このため外出および通学は禁止となります。できる限り自宅で安静にすることが望ましく、通常は1~2週間以内に症状は軽快します。このため一過性股関節炎とも呼ばれます。
症状が軽快した後1週間は再発を防止するため体育などの激しい運動は禁止されます。
単純性股関節炎を生じた児童が、将来的に発育障害や股関節変形を生じることはないと考えられています。発症後、経過観察の研究にて異常を認めた症例はありませんでした。
観察を要する股関節 ~いわゆるobservation hip~
単純性股関節炎は一時的な安静や加療で症状は軽快し、後遺症は残さない、心配のない疾患ですが、単純性股関節炎の発症時に同様の症状、すなわち股関節痛と破行で来院する子供のごく一部は、ペルテス病または化膿性股関節炎を発症している可能性があります。症状が類似しており、初期段階では判別が難しいことがあります。
そのため股関節痛と破行で来院された子供のほとんどが単純性股関節炎の症例ですが、他の疾患との注意深い判別と経過関節が必要です。で完全に症状が軽快するまでの経過観察を要する疾患とされるため、これを“いわゆるobservation hip”と言います。
次回は、ペルテス病と化膿性股関節炎についてご説明します。
医療法人社団裕正会 理事長 脇田 正実