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94号(仲町台編) 体の病気(器質性疾患)とこころの病気(精神的疾患)

2020.10.12
カテゴリ:脳神経内科とは

今回のお話は体と心の病気についてです。(脳)神経内科は脳や脊髄、末梢神経、筋肉などの体の病気(器質性疾患)をあつかうのですが、時々は心の問題が関係することもあります。 本来はうつ病などメンタルが原因の疾患は精神科や心療内科が専門ですが“体の症状”が問題になる“心の病気”もあり患者さんだけでなく医師側も鑑別に苦労することがあります。

 この方の診断は“身体表現性障害” あるいは“転換性障害”(昔ヒステリー発作と呼んだ)と呼ばれるもので、脳自体の機能には全く異常はないのですが心の中に葛藤があり、それが原因で症状が出る病気でした。 詐病と違い本人も意識していないので脳の病気(器質性疾患)と間違えやすいのです。実際この方は一度改善後地方に移住されたときに同じ症状が再発して、救急病院に搬送され”てんかん重責発作“の診断でICU(集中治療室)に入室し人工呼吸器につながれてしまいました。 入院後数日たってICUの担当医より電話があり、”いろいろ検査したが全く正常だった、ご家族から同じような事が過去にあったと聞いて連絡しました“とのことでした。 その先生にこれまでの経過と診断を告げたところ、2日後には”人工呼吸器を外したらすぐ元気になって歩いて退院しました!“と再度連絡がありました。 この女性は以前友人の”てんかん発作“を目撃されたことがありました。 家庭内や仕事場でのストレスがかつて見た光景を思い出し症状を起こしていたのです。 私が大学病院時代に“てんかん発作”を繰り返す20代の女性がおりました。 入院して経過を観察すると確かに手足がぴくぴく動いた後に意識を失い呼吸が止まる発作が一日何回も出現します。 しかし頭部MRIや脳波では全く異常がなく、発作を起こした直後でも回復すると普通に会話ができ、食事もとれる状態でした。

逆にストレスが原因だろうと思っていた方が、本当の体の異常だったこともあります。これも大学病院の話ですが、30代の真面目そうな男性が耳鳴りを主訴に受診されました。 耳鳴りなので近くの耳鼻科に受診されたのですが聴力や外耳道には異常がなく、神経内科(本当は心療内科を薦められた?)に受診するよう言われ外来にいらっしゃいました。 職業は銀行員で不眠も伴っており一見して神経質そうにもみえたので、数日間安定剤を内服して様子をみてもらいました。

数日後に来院された際には“よく眠れるようになったが、耳鳴りは変わりません、パタパタした音が四六時中続いています、なんだか人にも聞こえる気がします”と真面目な表情でおっしゃいます。 信じないと関係が悪くなると思い念のために聴診器を耳の横にあてると、かすかに音がするのでした! まさかと思い口を大きくあけて喉をみると、軟口蓋(口蓋垂につながるうすい粘膜)がリズミカルにパタパタ動いていました(この動きが耳鳴りとして聞こえていました)。 これは“口蓋ミオクローヌス”と呼ぶ症状で不随意運動の一種です。 原因は脳の血管障害や炎症が見られる場合と、感染症のあとの一過性の脳神経の機能異常で起きる場合があります。 この方の場合後者であり、内服で速やかに症状は改善し数週間で自然に緩解されました。

診断がつかない時にどうしても“心の病”を考えがちですが、まれにこのようなこともあるとの教訓を得たのでした。

ウェルケアはら脳神経内科 院長 原 一(はら はじめ)