110号 ”いわゆる成長痛”について(再掲)
前回まで変形性膝関節症についてお話ししました。
今回からしばらく整形外科の大きな分野である小児整形のお話をしたいと思っております。少子高齢化社会のまっただ中の日本においては子供の成長を見守ることはとても大切なことと思います。
※以下は、こもれび54号からの再掲載です。
整形外科は、小児期に生じた身体の変形を矯正・治療を行う事から始まったようです。そして現在のような広く多くの分野に分かれて発達してきたわけです。実は私の大学での研究テーマは小児整形の分野でした。そして大学から頂いた博士号も、小児整形外科の論文で頂きました。 今回は、小児整形外科から「成長痛」についいてお話をしましょう。
「成長痛」という言葉は聞いたことがあるでしょう。成長は子供の特徴ですが本当に成長することによって疼痛が生じるのでしょうか。現在小児整形外科では、成長による骨の伸張によって関節や筋肉など周辺の組織に疼痛を生じた証拠は認められていません。よく子供が、急に背が伸びるとそれに筋肉がついていけなくて痛みが生じるのでは、と思われる人がいますが、そういう事は無いと考えられています。 最近、幼児期に外傷や病気にかかって下肢に脚長差が生じた子供に器具を使った下肢延長術の手術が行われます。(器具で固定した部分の骨を切り、そして一日に一ミリ程度の器具の延長を行って骨癒合を得ながら延長を行う方法)。この程度では骨伸張による周囲関節などに疼痛は生じません。
しかし、従来より「成長痛」と呼ばれている疾患が存在します。それは“いわゆる成長痛”という疾患です。2~3歳から5~6歳程度の男の子に多いのですが、突然に夜になって、膝の周辺を痛がります。痛い痛いと言って泣くこともあります。しかし次の日の朝になるとケロッとして痛がりません。翌日に整形外科医が診察をすると、どこにも異常所見がありません。一日で痛めた組織が修復したとは考えられませんので、組織の器質的な変化を生じたとは考えられないのです。何回か繰り返すことがあっても悪化することはありません。この疾患の原因は不明です。
小児科には臍疝痛(さいせんつう)と言って原因不明の腹痛があるようですが、同様のものかもしれません。この下肢痛の原因は、昼間にたくさん運動をしたための関節の過敏反応では、と言われています。また、ある先生によると、下に弟や妹が出来た子供に多いので、親の注目を得たいという精神的な欲求がこの症状を生じさせているのでは、との指摘もあります。この疾患の頻度について明らかな数値はありませんが、前の国立小児病院の村上先生が外来の初診の病名を調べたら、この疾患は日常によくあるもので決して珍しいものではないようです。ともかくこの原因不明の下肢痛を、成長によるものではないと思われますので“いわゆる成長痛”と呼んでおります。
夜に突然膝の周辺を痛がったら温湿布が効果的と言われております。明らかな外傷はないのですから、タオルをお湯に浸してビニールの袋に包んで温めると、子供は大人しくして寝てもらえると言われています。精神的な事を考えて、子供が親の注目を期待しているのであれば、痛みの原因について聞いてあげて、家にある湿布剤ならなんでもよいので貼って、なんらかの手当をしてあげてください。様子を見てもよいのですが、症状がその後も数日以上続くようならよく診察をしてその原因を診察する必要があります。
よく、母親からどんな時に整形外科に来るべきかと質問されますが、痛みが数日以上続くようなら、上肢なら使わない様子、下肢なら跛行(びっこで歩く)状態なら何らかの原因があると考えて診察をお勧めします。原因が明確でないからと言って成長痛を原因不明の言い訳にしてはいけないと思います。